「都会の喧騒を離れて、自然豊かな場所でのんびり暮らしたい」
満員電車に揺られ、コンクリートジャングルを歩きながら、そんな夢を抱いている人は少なくないでしょう。僕もその一人でした。在宅でデザインの仕事をしていたこともあり、「それなら、家賃の高い都会にいる必要はないんじゃないか?」と考え、5年前に伊豆の小さな町へ移住しました。
移住前、僕らが抱いていたのは「田舎暮らし=生活費が安い」という、今思えば少し甘い期待でした。「家賃は下がるし、野菜も安く手に入るだろう。きっと、今よりもずっと豊かな生活が待っているはずだ」と。しかし、現実はそう単純ではありませんでした。
確かに安くなる費目はあります。しかし、その一方で、都会では考えもしなかったような出費が次々と現れたのです。
田舎暮らしは、ただ「安い」わけではない。お金のかかるポイントが都会とは全く「違う」だけなのだ。
この記事では、僕が伊豆で5年間暮らして見えてきた、田舎暮らしのリアルな生活費について、具体的な家計簿と公的なデータも交えながら、包み隠さずお話しします。これから移住を考えている方が、僕と同じような「こんなはずじゃなかった」を経験しないために。そして、賢くコストを管理し、心から豊かな田舎暮らしを実現するためのヒントになれば幸いです。
◆筆者紹介◆

伊豆に移住して5年目。在宅デザイナーとして働きながら、畑と釣りを愛する日々を送っています。移住当初は想定外の出費に戸惑いもしましたが、試行錯誤の末、月15万円ほどで夫婦二人、ストレスなく暮らせるようになりました。その経験から、リアルな田舎暮らしのお金の話を発信しています。
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【項目1】食費:自給自足と地域の恵みで都会の半分以下に

「田舎に行けば、畑で野菜を作って、魚を釣って、食費はほとんどかからなくなる」…これは、多くの人が抱く美しいイメージでしょう。半分は正解で、半分は少し違います。
我が家の食費(夫婦二人)は、月平均で約2万円。これに加えて、お酒代が1万円ほどです。都会で暮らしていた頃は、外食も含めると月8万円は軽く超えていたので、劇的に下がったのは事実です。実際、総務省の家計調査でも、大都市圏と地方では二人以上世帯の消費支出に月約2万円の差が見られます。 では、なぜここまで抑えられているのか?その理由は、やはり「自給力」と「地域の恵み」にあります。
畑と海からの恵み:食費削減の最前線
我が家には小さな畑があり、季節の野菜を育てています。夏はトマト、キュウリ、ナス。冬はダイコン、ハクサイ、ブロッコリー。採れたての野菜は味が濃く、スーパーで買うものとは比べ物になりません。もちろん、最初からうまくいったわけではありません。連作障害でトマトが全滅したり、虫に葉を食い尽くされたり、失敗は数え切れません。それでも、試行錯誤しながら育てた野菜が食卓に並ぶ喜びは、何物にも代えがたいものがあります。
また、週末には近くの堤防で釣り糸を垂れます。アジやカマス、時にはイナダが釣れることも。自分で捌いた新鮮な魚は、刺し身や塩焼き、煮付けにしていただきます。この「畑」と「釣り」のおかげで、野菜や魚をスーパーで買う機会はほとんどなくなりました。
購入するのは、主に肉、米、卵、調味料といった、自給が難しいものだけ。これが、食費2万円の大きな理由です。
都会にはない「無人販売所」という宝庫
田舎暮らしの食費を支えるもう一つの柱が、地域の「無人販売所」です。地元の農家さんが、その日の朝に採れたばかりの野菜や果物、時には卵などを、驚くような価格で置いてくれています。
スーパーでは1袋200円はするであろう立派なほうれん草が、無人販売所では100円。形は不揃いでも味は抜群のトマトが、袋いっぱいで150円。これは日常茶飯事です。
こうした地域の恵みを活用することで、購入する食材のコストも大幅に抑えられます。スーパーと無人販売所の価格を比較してみましょう。
| 品目 | スーパーマーケット(都内平均) | 田舎の無人販売所(僕の地域) | 差額 |
|---|---|---|---|
| ほうれん草(1束) | 約198円 | 100円 | -98円 |
| きゅうり(3本) | 約158円 | 100円 | -58円 |
| 大根(1本) | 約250円 | 100円 | -150円 |
| 卵(6個パック) | 約220円 | 150円 | -70円 |
もちろん、これは一例です。しかし、日々の積み重ねが大きな節約につながることは、お分かりいただけるでしょう。
ただし、忘れてはいけないのは、これは「自炊」が前提だということです。田舎は都会に比べて飲食店の数が圧倒的に少なく、特に夜遅くまで開いている店はほとんどありません。外食に頼った生活をしていると、選択肢の少なさと割高感から、逆に食費がかさんでしまう可能性もあります。
【項目2】光熱費:冬の寒さとプロパンガスが家計に突き刺さる

食費が安くなる一方で、田舎暮らしで僕らを驚かせたのが「光熱費」です。総務省の調査でも、北海道・東北・北陸といった寒冷地では光熱・水道費の支出割合が他の地域より大きいことが示されています。 特に、電気代とガス代は、都会のマンション暮らしとは比べ物にならないほど高くなることがあります。
電気代:木造一軒家の冬は容赦ない
我が家は築40年の木造一軒家。夏は涼しいのですが、冬の寒さは想像を絶するものでした。伊豆は温暖なイメージがあるかもしれませんが、朝晩は氷点下になることも珍しくなく、隙間風が容赦なく吹き込んできます。
ペットがいるため、冬場はエアコンを24時間稼働させているのですが、ピーク時の電気代は月15,000円を超えることも。夏場は8,000円程度なので、冬がいかに厳しいかお分かりいただけるでしょう。
これは、都会の鉄筋コンクリートのマンションがいかに断熱性に優れていたかを痛感させられた瞬間でした。古民家では断熱リフォームが快適な生活に必須とも言われますが、床・壁・天井の断熱材施工やサッシ交換には数百万円の費用がかかることもあります。 そこで僕らが試したのが、地道なDIYでの断熱対策です。
- 窓に断熱シートを貼る:ホームセンターで数千円で購入。最も手軽で効果を感じやすい。
- 厚手のカーテンに交換する:床まで届く長さにすることで、冷気の侵入を大幅にカット。
- 隙間テープで目張りをする:サッシやドアの隙間を埋める地道な作業が重要。
- サーキュレーターで暖気を循環させる:エアコンの暖かい空気を部屋全体に行き渡らせる。
これらの対策で、エアコンの設定温度を2度下げることができ、月に2,000円ほどの節約につながりました。小さなことですが、冬の間の4ヶ月で考えれば8,000円。馬鹿にできない金額です。
ガス代:プロパンガスの洗礼

田舎暮らしで多くの移주者が直面するのが「プロパンガス(LPガス)」問題です。都市部では当たり前の都市ガスは、インフラ整備の関係で田舎には通っていないことがほとんど。そして、このプロパンガス、都市ガスに比べて料金がかなり高いのです。
一般的に、プロパンガスは都市ガスに比べて1.5倍から2倍ほど料金が高いと言われています。 これは、ガスボンベを各家庭に配送するための人件費や輸送コストが上乗せされるためです。
我が家も例に漏れずプロパンガスで、毎月のガス代は約5,000円。特に冬場、お風呂の追い焚きが増えると、7,000円近くになることもあります。これは、都市ガスを使っていた頃の倍近い金額でした。
| 都市ガス(東京ガス参考) | プロパンガス(我が家) | |
|---|---|---|
| 基本料金 | 約1,056円 | 約1,800円 |
| 従量料金(10m³使用時) | 約1,444円 | 約3,200円 |
| 合計(月額目安) | 約2,500円 | 約5,000円 |
※熱量が異なるため単純比較はできませんが、料金には大きな差があります。
プロパンガスは自由料金制のため、ガス会社によって価格が大きく異なります。 もし「ガス代が高いな」と感じたら、複数のガス会社に見積もりを依頼し、契約を見直すことを強くお勧めします。それだけで、年間数万円の節約につながるケースも珍しくありません。
【項目3】交通費:車は贅沢品ではなく「足」である

都会で暮らしていた頃、僕らは車を持っていませんでした。電車やバスが数分おきに来る生活では、その必要性を感じなかったからです。しかし、田舎ではそうはいきません。
田舎暮らしにおいて、車は単なる移動手段ではありません。それは生活を支える「インフラ」であり、なければ生命線が断たれると言っても過言ではない「足」なのです。
最寄りのスーパーまで車で15分、コンビニまで10分。バスは1時間に1本。雨の日に牛乳一本を買いに行くのも、車がなければ一大事です。そのため、移住と同時に中古の軽自動車を購入しました。田舎では「一人一台」が常識の地域も少なくありません。
車を持つということは、当然ながら維持費がかかります。これが田舎暮らしにおける最大の「隠れコスト」かもしれません。
軽自動車一台の年間維持費、そのリアルな内訳
僕らが乗っている軽自動車の、年間の維持費を具体的に計算してみました。
| 費目 | 年間費用(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| 軽自動車税 | 10,800円 | 毎年4月1日に課税 |
| 自動車重量税 | 3,300円 | 車検時に2年分(6,600円)を支払い |
| 自賠責保険料 | 8,770円 | 車検時に24ヶ月分(17,540円)を支払い |
| 任意保険料 | 40,000円 | 年齢や等級、補償内容による |
| 車検費用(法定費用除く) | 25,000円 | 2年に1回(50,000円)と仮定 |
| ガソリン代 | 60,000円 | 月5,000円(年間走行距離約4,000km) |
| メンテナンス費 | 15,000円 | オイル交換、タイヤ、消耗品など |
| 合計 | 約162,870円 | 月換算:約13,572円 |
※駐車場代は家賃に含まれるため0円として計算。
年間で約16万円、月々1万3千円以上の出費です。都会で電車代に月1万円払っていたのと比較すると、大きな負担増に感じられるかもしれません。しかし、軽自動車は普通車に比べて税金や保険料が安く、燃費も良いため、田舎暮らしの強い味方です。 都会の月極駐車場代が数万円することを考えれば、トータルでは安く済んでいるとも言えます。
【項目4】住居費:家賃の安さに隠れる「維持・管理」という名の出費

田舎暮らしでは、家賃や住宅ローンといった「住むための費用」は都会より安く抑えられる傾向にあります。我が家も賃貸ですが、駐車場2台付きの3DKで家賃は月5万円。都内で同等の物件を探せば、倍以上の値段はするでしょう。
しかし、特に一軒家の場合、都会のマンションでは発生しなかった「維持管理費」がボディブローのように効いてきます。
浄化槽との付き合い方:年間5万円以上の義務
下水道が整備されていない地域では、各家庭で「浄化槽」を設置し、生活排水を処理する必要があります。この浄化槽は、法律で定期的な保守点検、清掃、法定検査が義務付けられており、これがなかなかの出費となります。
| 項目 | 頻度 | 費用(目安) |
|---|---|---|
| 保守点検 | 年3~4回 | 約15,000円 |
| 清掃(汲み取り) | 年1回以上 | 約20,000円~ |
| 法定検査 | 年1回 | 約5,000円 |
| ブロワー電気代 | 毎月 | 約1,500円/月(年間18,000円) |
| 年間維持費 合計 | 約58,000円~ |
年間で5万円から9万円程度の維持費がかかるのが一般的です。 これは賃貸・持ち家に関わらず発生する費用なので、物件探しの際には下水道の有無と合わせて必ず確認すべきポイントです。
忘れた頃にやってくる高額修繕費
持ち家の場合は、さらに大きな修繕費が必要になります。特に築年数の古い古民家などは、現代の住宅に比べて耐震性や断熱性に課題がある場合が多く、改修費用が高額になる傾向があります。
- 外壁・屋根塗装:10年~15年に一度。100万円単位の費用がかかることも。
- 給湯器の交換:寿命は約10年。突然お湯が出なくなる恐怖と、数十万円の出費が待っています。
- 耐震補強:現行の耐震基準を満たしていない場合、命を守るために最優先で検討すべき工事。100万円~300万円が目安です。
- シロアリ対策:湿気の多い地域では必須。予防・駆除に費用がかかります。
- 庭の手入れ:夏場の草刈りは重労働。業者に頼めば数万円。大きな木の伐採はさらに高額です。
これらの出費は毎月発生するわけではありませんが、いざという時のために計画的に積み立てておく必要があります。僕らも、いつか自分たちの家を持つ日のために「修繕積立金」として毎月1万円を貯金しています。
「田舎だから安い」は幻想?固定資産税の現実
そして、持ち家であれば毎年「固定資産税」の支払いがあります。「田舎だから安いだろう」と思いがちですが、一概にそうとは言えません。 土地の評価額は低くても、建物の評価額は全国共通の基準で算出されるため、地域による価格差の影響を受けにくいのが実情です。 築浅で立派な家であれば、年間10万円以上の税金がかかることも珍しくありません。
「家賃が安いから」という理由だけで安易に物件を購入すると、こうした維持管理費や税金に苦しめられることになりかねません。
【項目5】見えない出費:田舎ならではの「お付き合い」と「備え」
家計簿の数字には表れにくいけれど、確実に存在する出費。それが「地域とのお付き合い」にかかる費用です。
町内会費と地域活動
多くの地域には「町内会(自治会)」があり、加入すると会費を支払うことになります。金額は地域によって様々で、全国平均では月額300円~800円程度ですが、年間で数万円、中には10万円を超える地域も存在します。 我が家の地域は年間6,000円(月500円)です。
この会費は、地域の清掃活動、お祭り、防犯灯の維持費、防災備品の購入などに使われます。 また、冠婚葬祭など、地域内での助け合いの際に使われることもあります。
さらに、お祭りがあれば寄付を求められたり、消防団に入れば活動費が必要になったりすることもあります。これらは強制ではありませんが、地域コミュニティの一員として円滑な関係を築くためには、無視できない出費と言えるでしょう。
「おすそ分け」の文化と返礼品
田舎では、ご近所さんから野菜や魚などを「おすそ分け」していただくことがよくあります。これは本当にありがたい文化ですが、いただいてばかりではいられません。「もらいっぱなし」は人間関係を損なう原因にもなりかねないため、こちらも旅行に行った際のお土産や、何かのお礼として品物をお返しする必要があります。この「返礼品」にかかる費用も、地味に積み重なっていきます。
【まとめ】都会と田舎の生活費、その本質的な違い

ここまで、田舎暮らしのリアルな生活費についてお話ししてきました。最後に、都会と田舎の生活費を比較し、僕が考える「豊かさ」について触れたいと思います。
| 費目 | 都会暮らし(東京・杉並区時代) | 田舎暮らし(伊豆・現在) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 住居費(家賃) | 110,000円 | 50,000円 | -60,000円 |
| 食費 | 80,000円 | 30,000円(酒代含む) | -50,000円 |
| 光熱費 | 14,000円 | 20,000円(冬場平均) | +6,000円 |
| 交通費 | 20,000円(定期代など) | 13,000円(車維持費) | -7,000円 |
| 通信費 | 12,000円 | 8,000円(格安SIM+光回線) | -4,000円 |
| その他雑費・交際費 | 30,000円 | 20,000円 | -10,000円 |
| 家の維持費・地域費 | 0円 | 10,000円(修繕積立・町内会費等) | +10,000円 |
| 合計 | 266,000円 | 151,000円 | -115,000円 |
※あくまで我が家の例です。家族構成やライフスタイルによって大きく変動します。
数字の上では、月に10万円以上生活費が下がりました。しかし、それは単に「安くなった」という言葉では片付けられません。
都会では、お金を払って「時間」と「利便性」を買っていました。駅近の物件、すぐに食べられる外食、数分で来る電車。一方、田舎では、お金を払う代わりに「手間」と「時間」をかけて、生活そのものを自分で作り上げています。野菜を育て、魚を釣り、家の不具合を自分で直し、遠くのスーパーまで車を走らせる。その「手間」こそが、生活の豊かさであり、都会では得られなかった実感なのだと、僕は感じています。
田舎暮らしは、決して楽園ではありません。不便なことも、面倒なこともたくさんあります。しかし、お金のかけどころと、自分の時間の使い方が、都会とは根本的に変わります。収入が多少下がったとしても、支出をコントロールし、自然の恵みを受けながら暮らすことで、心穏やかな日々を送ることは十分に可能です。
もしあなたが田舎暮らしを考えているなら、「安さ」という幻想に惑わされず、この記事で紹介したようなリアルなコストを直視してください。そして、あなたにとっての「豊かさ」とは何かを問い直してみてください。その先に、きっと後悔のない、あなただけの田舎暮らしが見つかるはずです。
田舎暮らしの生活費に関するFAQ
我が家の場合、敷金・礼金、引っ越し代、中古の軽自動車購入費、当面の生活防衛資金などを含めて、合計で約150万円ほどかかりました。移住にかかる費用は、単身で3万円~10万円、家族で10万円~25万円程度が目安とされていますが、これに加えて住居の初期費用や車の購入費がかかるため、100万円以上は見込んでおくと安心です。
場所によりますが、多くの地域で光回線が整備されてきています。僕の住む地域も光回線が利用でき、オンライン会議や大容量データのやり取りも問題なく行えています。ただし、移住先の物件を決める前に、必ず提供エリアを確認することが重要です。場所によってはモバイルWi-Fiしか選択肢がなく、通信が不安定になる可能性もあります。
都会に比べて、ご近所付き合いが密になるのは事実です。地域のイベントや清掃活動への参加が求められることもあります。これを「面倒」と感じるか、「地域との繋がり」と捉えるかで、満足度は大きく変わるでしょう。大切なのは、自分から挨拶をし、地域のルールを尊重する姿勢です。僕自身は、ご近所さんとの関係を楽しみながら暮らしています。
大きな後悔はありませんが、「もっと早く移住すればよかった」と思うことはあります。強いて挙げるなら、専門的な医療機関や、文化的な施設(美術館、映画館など)が少ないことでしょうか。ただ、それも車で1時間ほど走れば都市部に出られるので、今のところ大きな問題にはなっていません。不便さを受け入れ、その中で楽しみを見つけることが、田舎暮らしを成功させるコツかもしれません。


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