伊豆に引越してきた時、テレビとの縁が切れた。別荘として作られたこの家にはそもそもアンテナがなく、どうやっても地デジが映らないのだ。
これはいい、と思った。
私はもともとテレビに執着がないため、昔から話題のドラマなんかにも疎かった。しいていえば、正月にやっているマグロ漁師の特集番組だけは子供のころ観ていたなぁという程度だ。今さらテレビが見られないからと言ってなんの問題もない。
しかし夫はどうか?彼は生粋のテレビっ子なのである。ドラマやアニメ、昔のテレビ番組にも詳しいし、都会に住んでいる頃はテレビがついていない日は無いほどで、録画リストはいつも容量ギリギリだった。だから、これからどうなるのか興味深かった。
結果的に2年半ものあいだテレビとはかけ離れた生活をしたのであるが、私はもちろんどうってことなく、夫も平気そうに、むしろ快適に毎日を過ごしていた。
テレビがない生活というのは実によい。ただボーっとくだらない報道を眺めている時間が無くなる。正解の分からない「世間」というものに影響されることもなく、精神面でも非常に衛生的である。
移住してすぐ、新型ウイルスの影響によって世間がザワついたのはさすがに知っている。けれども私たちは、それとは物理的にも精神的にも距離を置き、伊豆の山の中でひっそりと暮らしを楽しんでいた。
2人ともフリーランスの在宅ワーカーになると、よりいっそう世間への関心は薄くなった。なにせ、他人と近距離で接することが非常に少ない暮らしなのだ。
そんな事より私怖かったのは、伊豆でクマが目撃されたという情報の方だった。しかもこの目撃現場は、我が家から目と鼻の先だ。
今の生活では、新型ウィルスに泣かされる可能性よりも、そういった野生動物や自然の驚異にさらされる可能性の方が高いのである。だからテレビよりも、スピーカーから流れる音声放送「広報伊豆」のほうが極めて重要な情報源なのだ。
そんな私たちでも、年に4回だけテレビを見たい時がある。4つあるゴルフのメジャー大会の放送だ。スポーツだけは、結果を知ってから見ると面白さが半減してしまう。
一度なんて、マスターズを見るために修善寺の宿を予約したこともあった。もちろん、せっかくなので温泉も飲み歩きも楽しんだのであるが、目的はあくまでゴルフを見ること、つまりテレビだ。(ちなみにその年は松山英樹が優勝し、嬉しくて庭に記念樹を植えた。)
そんな我が家に、なんとアンテナがついた。夫が通販で2000円ちょっとで買ったそれは、こんなので本当に地デジが映るの?と思うほど小型のアンテナだった。10センチほどしかない。知らぬ間に、また技術は進歩しちゃっているようだ。チョット怖い。

そのアンテナを窓際にかざしテレビに接続すると、本当にテレビがついた!画質もかなり良い。
新鮮だったので5分ほど夕方のニュースを見てみる。あぁ、変わってないな。呆れとも安心とも言える気持ちになった。
しかし小型アンテナは、結局ゴルフの大会時期以外は用無しの存在となっている。 せっかくだから、今年の年末は世間と同じタイミングで盛り上ってみようかと思う。きっと楽しいカウントダウン番組を放送してくれることだろう。
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30歳からの田舎暮らし
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田舎産物おつまみ音頭
伊豆の三賢人
このお話は、『30歳からの田舎暮らし~伊豆に移住しました~: 四季報ちゅんぶん2023夏号』に収録されています。
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