
都会の暮らしに、心も体も限界かもしれない…。自然豊かな場所に移住したら、何か変わるんだろうか?実際に移住した人の、正直な体調の変化が知りたいな…。
その息苦しさ、そして、かすかな希望。痛いほどよく分かります。
かつての僕たちが、まさにそうでしたから。
鳴りやまないサイレン、灰色のアスファルト、満員電車で押しつぶされる息苦しさ。気づけば僕も妻も、心と体のあちこちが軋みをあげていました。このままじゃ、壊れてしまう。そう感じて、僕たちは都会の生活に別れを告げ、伊豆の小さな町へ移り住むことを決意しました。
この記事では、都会での生活に疲れ果てた僕たち夫婦が、田舎に移住してから経験した「驚くほどリアルな体調の変化」について、包み隠さずお話したいと思います。
田舎暮らしは、単純に「健康に良い」という一言で片付けられるものではありませんでした。そこには、予想もしなかった落とし穴と、想像をはるかに超える恩恵があったのです。
◆筆者紹介◆
都会でのサラリーマン生活に終止符を打ち、今は伊豆の自然に囲まれて、1日4時間ほどの在宅ワークで生計を立てています。
妻と二人、のんびりと、でも確かに自分たちの足で立って生きる。そんな毎日です。
僕たちの移住と働き方のリアルは、こちらの本に詳しく書きました↓

理想と現実のギャップ。移住直後に僕らを襲った「幸せ太り」の罠
「田舎暮らし=健康的でスリムになる」…そんなイメージを抱いているなら、まず、その幻想を一度脇に置いてください。
驚かれるかもしれませんが、移住して最初の数ヶ月、僕たち夫婦はそろって、面白いように太ってしまったんです。
都会のストレスから解放され、さぞ健康体になるだろうと思っていたのに、なぜ?理由は、あまりにも単純で、そして幸せなものでした。
理由1:目に入るものすべてが、美味すぎた
まず、食べ物が反則的に美味しいんです。
例えば、車で10分も走れば着く道の駅。そこには、朝採れで土の匂いがする野菜や、キラキラと銀色に輝く新鮮な魚が、都会のスーパーでは考えられないような値段で並んでいます。
「見てよこれ!この太いきゅうり、5本で100円だって!」「このアジ、目が透き通ってる…絶対美味いやつじゃん!」
そんな会話をしながら、カゴはあっという間に満杯。都会にいた頃の「もったいない精神」が爆発し、ついつい買い過ぎてしまう。そして、その新鮮な食材を最高の状態で味わうために、自然と食卓は豊かになります。
さらに、僕が釣りを覚えたのが運の尽きでした。初心者の頃は釣れること自体が楽しくて、食べるあても考えずにアジやカマスを釣り上げてしまう。命をくれた魚に申し訳なくて、塩焼き、なめろう、アジフライ、干物…と、必死に調理しては食べる毎日。そりゃ、太りますよね。
理由2:うまい肴には、うまい酒がついてくる
そして、食事が美味しいと、自然と酒も進んでしまうのが人間の性(さが)というものです。
近所の小さな居酒屋にふらっと立ち寄れば、壁の黒板には「本日のおすすめ」として、今朝、目と鼻の先の港で揚がったばかりの魚の名前が並んでいる。タチウオの塩焼き、イサキの刺身、アオリイカの天ぷら…。これを目の前にして、頼まないという選択肢はありません。
そして、そんな絶品の肴に合わせるのは、この土地で醸された地酒。キリリと冷えた辛口の日本酒が、新鮮な魚の旨味を最大限に引き出してくれる。この組み合わせは、もはや悪魔的です。
家でも、七輪で干物を炙りながら一杯。気づけば妻と二人で毎晩のように酒を酌み交わし、一升瓶が空になることもしばしば。都会での「ストレス発散の酒」とは違い、心から「美味しいね」と言い合いながら飲む酒は、幸福度が高いぶん、歯止めが効かなくなってしまうのでした。
理由3:都会より歩かない、「車社会」という落とし穴
そして、最も意外だったのが、運動不足です。
「田舎の方が自然の中で歩き回るんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、現実は逆でした。僕たちの住む伊豆では、ちょっとした買い物から役場の手続きまで、移動はほぼ100%車です。
玄関を開ければすぐ車。目的地に着けば、駐車場の入り口に一番近い場所に停める。結果、一日中ほとんど歩かない、なんて日も珍しくありません。
都会に住んでいた頃は、駅までの道のり、長い乗り換え通路、会社のビル内の移動など、意識せずとも毎日数千歩は歩いていました。その「無意識の運動」がごっそり抜け落ちたことで、僕たちの体は完全になまってしまったのです。
このままではいけないと、最近は意識的に近所の山を散歩したり、週末には天城山系のハイキングに出かけたりして、積極的に歩くように心がけています。
| 項目 | 都会(横浜)時代 | 田舎(伊豆)での現在 |
| 1日の平均歩数 | 約8,000歩 | 約2,000歩(意識しないと) |
| 主な移動手段 | 電車、徒歩 | 自家用車 |
| 食材の入手先 | スーパー、デパ地下 | 道の駅、無人販売所、いただきもの、自分で釣った魚 |
| 外食の頻度 | 週3〜4回(ランチ含む) | 月2〜3回 |
| 飲酒の主な理由 | 仕事のストレス発散、付き合い | 美味しい食事と共に楽しむため |
こうして見ると、生活様式が180度変わったことがよく分かります。この変化が、良くも悪くも僕たちの体に直接的な影響を与えたのです。
妻を苦しめたパニック障害が、嘘のように消えた日
さて、ここまでは少しネガティブな(?)変化でしたが、田舎暮らしがもたらした恩恵は、そんな体重増加など些細なことに思えるほど、大きなものでした。
その最たるものが、都会にいた頃、長年妻を苦しめていたパニック障害が、ピタリと発症しなくなったことです。
パニック発作とは、極めて強い苦痛、不安、恐怖などが突然現れて短時間で治まる発作のことで、身体症状や精神症状を伴います。パニック症では、パニック発作が繰り返し生じることで、将来の発作に対して過度の不安を覚えるようになったり、発作を引き起こす可能性のある状況を回避するための行動変化がみられたりします。
MSDマニュアル家庭版
都会にいた頃の妻は、いつ発作が起きるかという「予期不安」に常に怯えていました。 特に、逃げ場のない満員電車は彼女にとって恐怖の対象で、何度も途中下車を繰り返していました。
それが、伊豆での生活を始めてから、一度も発作を起こしていないのです。もちろん、完治したわけではないのかもしれません。でも、少なくともこの穏やかな環境が、彼女の心に安らぎを与えてくれていることは間違いありません。
理由1:癒やしの周波数「1/fゆらぎ」に包まれる毎日
妻は都会にいた頃、精神を落ち着かせるために、YouTubeで「森の音」や「川のせせらぎ」といった自然環境音のBGMをよく流していました。
それが、今では窓を開ければ天然のBGMが流れ込んできます。ウグイスの鳴き声、カエルの合唱、葉が風にそよぐ音、遠くで聞こえる川のせせらぎ。これらの音には、「1/fゆらぎ」という、人を心地よくさせるリズムが含まれていると言われています。 規則的なようでいて、予測できない不規則さが同居するこのリズムは、心拍のリズムと似ており、脳に安心感を与え、リラックス効果をもたらすのです。
人工的な音に満ちた都会から、自然の音に包まれる生活へ。この変化が、妻の張り詰めていた心を少しずつ解きほぐしてくれたのだと思います。
理由2:「乗れない」のではなく「乗らなくていい」という解放感
パニック障害を持つ人にとって、電車やバスなどの公共交通機関は大きなハードルです。「すぐに降りられない」「人の目が気になる」という状況が、強い不安を引き起こすトリガーになり得るからです。
田舎暮らしでは、前述の通り移動はもっぱら車。自分のペースで、いつでも停まれる安心感があります。「電車に乗れない」という苦しみから、「そもそも電車に乗る必要がない」という生活へのシフトは、妻にとって何よりの解放だったようです。
移住して3年が経った頃、東京での用事のために久しぶりに電車に乗る機会がありました。もう何年も発作は起きていないし、大丈夫だろう。そう高を括っていたのですが…。
プラットフォームに溢れる人、けたたましい発車ベル、密閉された車内。電車が動き出して10分も経たないうちに、妻の顔は青ざめ、呼吸が浅くなっていきました。
幸い、すぐに次の駅で降りて事なきを得ましたが、僕たちは愕然としました。そして、はっきりと悟ったのです。
田舎暮らしは、病気を「治した」わけではないのかもしれない。ただ、妻を苦しめる原因が、この場所には存在しないだけなのだと。僕たちの心と体が、もう都会の環境を受け付けなくなっているのだと。
この出来事は、僕たちが選んだ道が間違っていなかったと確信する、決定的な瞬間でした。
20代からの持病「痛風」が鳴りを潜めた本当の理由
妻だけでなく、僕自身の体にも嬉しい変化がありました。それは、20代前半から悩まされてきた「痛風」の症状が、ほとんど出なくなったことです。
僕の家系は父も祖父も叔父も、男性陣はことごとく痛風持ち。いわば「痛風界のサラブレッド」である僕は、30代にもなれば激痛と付き合う日々を覚悟していました。風が吹いただけでも痛む、というあの激痛は、経験した者にしか分からない地獄です。
ところが、伊豆に移住して食生活がガラリと変わったことで、僕の尿酸値は安定し、足の指が疼くあの嫌な予兆を感じることもなくなりました。
食卓の変化(1):新鮮な野菜が主役になったから
最大の要因は、野菜の摂取量が劇的に増えたことでしょう。
都会にいた頃は、正直言って野菜は添え物でした。それが今では、自分たちの小さな畑で採れたトマトやナス、近所の無人販売所で手に入れたみずみずしいレタスなどが、食卓の主役です。
新鮮な野菜は、味が濃くて本当に美味しい。野菜嫌いだった僕が、今では野菜そのものの味を楽しむようになっているのですから、不思議なものです。尿酸値を下げるためには、野菜や海藻類を積極的に摂り、尿をアルカリ性に傾けることが良いとされています。意識せずとも、それを自然に実践できる環境になったことが大きいのだと思います。
食卓の変化(2):鹿肉が教えてくれた「命をいただく」ということ
もう一つの大きな変化は、「ジビエ」との出会いです。
僕が住む伊豆市は、残念ながら鹿による食害が深刻で、駆除対象となっています。そのため、猟師さんから鹿肉をいただく機会が度々あるのです。時には、鹿の解体を手伝うこともあります。

↑妻が鹿を解体している様子。最初は戸惑いましたが、今では貴重な経験です。
ジビエと聞くと「臭みがあるのでは?」と敬遠する人もいますが、新鮮で適切な処理をされた鹿肉は、全く臭みがありません。脂肪が少なく、赤身の旨味が凝縮された、非常にヘルシーな肉です。
この鹿肉を食べるようになってから、脂身の多い牛肉や豚肉を食べる機会が自然と減りました。痛風の原因となるプリン体は、肉類、特にレバーなどに多く含まれます。 ヘルシーな鹿肉中心の食生活に変わったことも、痛風改善の一因だと考えています。
| 項目(100gあたり) | 鹿肉(赤肉) | 牛肉(和牛バラ) | 豚肉(バラ) |
|---|---|---|---|
| カロリー | 約90 kcal | 約317 kcal | 約354 kcal |
| 脂質 | 約0.3 g | 約26.4 g | 約30.8 g |
| タンパク質 | 約21.9 g | 約16.1 g | 約15.0 g |
| 鉄分 | 約4.6 mg | 約2.0 mg | 約1.0 mg |
| プリン体 | 約110 mg | 部位による(バラは約90mg) | 部位による(バラは約80mg) |
鹿肉は、牛や豚に比べて圧倒的に低カロリー・低脂質で、高タンパク・高鉄分であることが分かります。 プリン体含有量自体は牛肉や豚肉と大きくは変わりませんが、脂質の摂取量が激減したことが、僕の体には良い影響を与えたようです。
スーパーでパック詰めされた肉をただ消費するのではなく、自らの手で命を解体し、感謝していただく。そんな経験を通して、食に対する価値観そのものが変わったことも、大きな収穫でした。
原因不明の倦怠感から解放され、心が穏やかになった
体調の変化もさることながら、精神面の安定も、田舎暮らしがもたらしてくれた大きな贈り物です。
都会にいた頃は、常に漠然とした倦怠感に付きまとわれていました。朝起きるのが億劫で、仕事中も集中力が続かない。週末は疲れて寝て過ごすだけ。今思えば、心と体が悲鳴をあげていたのでしょう。
田舎暮らしを始めてから、心が凪のように穏やかになりました。劇的な変化というより、薄い膜が一枚一枚剥がれていくように、ゆっくりと、でも確実に気持ちが晴れやかになっていくのを感じます。
理由1:「見えない騒音」からの解放
都会の生活は、意識していなくても常に「音」に晒されています。車の走行音、工事の音、救急車のサイレン、駅のアナウンス、携帯の通知音…。これらの人工音は、無意識のうちに脳を刺激し、疲労させていきます。
今の僕の仕事場は、自宅の縁側です。聞こえてくるのは、鳥の声、虫の音、風の音だけ。これらの自然音は、脳を疲れさせるどころか、むしろ集中力を高め、心を落ち着かせてくれます。 勝手に脳が疲弊していく感覚がなくなり、思考がクリアになったのを実感しています。
理由2:僕らが忘れていた、土と微生物との共生
畑仕事や庭の手入れで、毎日のように土に触れるようになったことも、精神的な安定に大きく寄与しているようです。
実は、土に触れる生活が心身の健康に繋がることは、科学的にも示唆されています。
土のなかには数多くのバクテリアが存在します。そのなかのある種のバクテリアには脳内神経伝達物質の1つであるセロトニンを増やす働きがあるということが、研究の結果分かっているそうです。セロトニンは人にやる気を起こさせると同時に不安な気持ちを抑制する働きがあることで知られています。
NATURES.「土」のなかのバクテリア。その意外な効能から自然とのふれあいの大切さを知る。
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心身の安定に不可欠な物質です。 そのセロトニンの約9割は腸で作られており、腸内環境がメンタルに大きく影響することが分かっています(脳腸相関)。 土の中の多様な微生物に触れることが、僕たちの腸内環境を豊かにし、結果として心を安定させてくれているのかもしれません。
また、裸足で直接大地に触れる「アーシング(グラウンディング)」という健康法も注目されています。体内に溜まった余分な電磁波を放出し、大地のエネルギーを取り込むことで、ストレス軽減や睡眠の質の向上といった効果が期待できると言われています。 畑仕事で長靴を脱いで裸足になった時の、あの何とも言えない心地よさは、こうした効果の表れなのかもしれません。
【結論】田舎暮らしは万能薬じゃない。でも、都会が蝕む心と体をリセットする場所だった
ここまで僕たち夫婦の体験を振り返って思うのは、「田舎暮らしが健康にしてくれた」というよりは、**「これまでの都会の生活が、いかに人間本来の在り方からかけ離れていたか」**ということです。
雑草一本生えないコンクリート。夜空を覆い隠す高層ビル。自然の音をかき消す機械音。電磁波。排気ガス。 人間も動物の一種である以上、そんな環境に長くいれば、心身に変調をきたすのは当然のことだったのです。
田舎暮らしが万能薬だとは思いません。車がなければ生活できず、医療機関へのアクセスも都会ほど良くはありません。 人間関係が濃密な部分もあります。しかし、少なくとも僕たち夫婦にとっては、都会で失いかけた健康と心の平穏を取り戻すために、必要不可欠な場所でした。
この記事を読んでいるあなたは、今の生活している場所が、自分の心と体に本当に合っていると感じていますか?
もし少しでも違和感があるのなら、一度立ち止まって考えてみてください。いきなり移住する必要はありません。週末だけ自然の中で過ごしてみる。ベランダで土いじりを始めてみる。そんな小さな一歩が、あなたの心と体に、思いがけない変化をもたらしてくれるかもしれません。
あなたにとっての「生きやすい場所」が、きっとどこかにあるはずです。
よくあるご質問 (FAQ)
A1. はい、いくつかあります。まず、記事本文でも触れた通り「車社会による運動不足」は深刻な問題です。意識して歩く習慣をつけないと、あっという間に体力が落ちます。また、専門的な医療機関や夜間救急病院が遠い、という点は常に頭にあります。持病がある方や小さなお子さんがいる家庭は、移住先の医療体制を事前にしっかり調べておくことが不可欠です。あとは、虫や野生動物との遭遇がストレスになる、という人もいるかもしれません。
A2. 精神的な解放感は、移住してすぐに感じました。騒音から解放され、朝、鳥の声で目覚める生活は、それだけで心が洗われるようでした。一方で、身体的な変化は、もっとゆっくりでした。妻のパニック障害が起きなくなったのは数ヶ月後ですし、僕の痛風が改善したのは、食生活が完全に田舎モードに切り替わった1年後くらいからです。焦らず、その土地の生活リズムに体を慣らしていくことが大切だと思います。
A3. 正直に言うと、たまになります(笑)。特に、最新の映画が観たい時や、特定の専門書が欲しい時など、文化的な刺激が恋しくなることはありますね。ただ、今はネット通販や動画配信サービスが充実しているので、大抵のことは解決できます。それ以上に、静かな環境や豊かな自然という、ここでしか得られない価値の方が、僕たちにとっては大きいと感じています。
A4. まずは、かかりつけ医がいる場合は、移住について相談しておくことをお勧めします。紹介状を書いてもらったり、移住先で継続して治療が受けられる病院を探してもらったりすると安心です。また、車の運転免許は必須です。ペーパードライバーの方は、都会にいるうちに練習しておくべきでしょう。そして何より、「完璧な健康生活」を求めすぎないこと。最初は失敗したり、戸惑ったりするのが当たり前です。大らかな気持ちで、新しい環境を楽しむ姿勢が一番の健康の秘訣かもしれません。
ではでは。



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