※この話は『資本主義の木陰でスローライフ』に収録されています。
結婚相談所の話
結婚願望の薄い人が最近は増えているそうだが、結婚を強く望む人もまだまだ多いようだ。その証拠に、結婚相談所は繁盛しているらしい。
そんな盛況な結婚相談所に密着したドキュメンタリー番組の中で、一人の女性が相談員に『相手へ求める条件』を伝えていた。
「はぁ?結婚できないからウチに来てるんでしょう?いっちょ前に条件がおありで?」なんて心の声はおくびにも出さず、相談員は笑顔で頷き、話を聞いていた。
女性が最初に提示した条件は、相手の年収についてだった。
うーん。
なぜ、この女性は年収の高い男性と結婚したいのだろうか。
確かに産まれてくる子供や自分自身が将来飢えないために、食い扶持は必要だ。だったら漁師と結婚すればいい。毎日魚が手に入るから、飢えることはない。
でも毎日魚料理というのも飽きそうだ。お金があればスーパーで肉や野菜を買えるから、料理に幅が出るだろう。
そうか。この女性は、魚料理のレパートリーが少ないから高収入の男性を求めているのかもしれない。
いや、きっと違うな。
おそらく、もっと単純な理屈だ。
優秀なオスの遺伝子を求めるメスの本能。多くの生物が共通して持ち合わせている本能。
ニワシドリのメスが立派な巣を作るオスを選ぶように、人間の女性もまたお金をたくさん持つ男性を求める本能が備わっているのだろう。
しかし、そうだとしたら不思議な話である。お金というのは人類が後から作った『概念』だから、もともと存在していなかったはずだ。進化の過程で本能に組み込んだのだろうか。世界広しと言えど、概念によってパートナーを選ぶのはニンゲン以外にいないだろう。
まぁ僕は女じゃないから、本当のところはどうか分からない。
妻に聞こうと思ったが、馬鹿馬鹿しいのでやめた。妻に、そんな本能がないのは分かり切っていることだ。パートナーに僕を選んでいるのだから。
だけど幸い、僕たち夫婦は上手くいっている。
むしろお金なんてなくても、この人となら楽しくやっていけるとお互いが思えたから結婚したのだと思う。だから、僕たちが金銭面の問題で離婚することはないだろう。
とは言え、先のことなんて誰にもわからない。
もしかしたら離婚することになって、僕も結婚相談所のお世話になったりして。
そうなったら、 「相手に求める条件なんてありません。しいて言えば、会ったこともない相手に条件を突き付けるような失礼な人でなければ。」と相談員に言おうかな。
ヤリョによる解説
大人になると、人を好きになるのにも条件が必要になってしまうらしい。
子供の時は純粋に人を好きになれたのに。
結婚相手のステータスは、そのまま自分のステータスになると考える人も多いのかもしれない。
そんな時、一番分かりやすいステータスが「年収」なのだろう。
資本主義は、人間にも値札をつけてしまう。
悲しいことだ。
そんな想いから、この話を書いた。
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