※この話は『資本主義の木陰でスローライフ』に収録されています。
宝くじの話
「もし宝くじが当たったら」という想像は誰だって一度はしたことがあると思う。
豪邸を建てたいとか、世界一周旅行に行きたいとか、こんな想像をしている時は楽しい。
でも本当に、本当に、本当に、3億円当たったらどうなるのだろう。僕も昔、真剣に自問自答してみたことがあった。
――まず、当たったことを誰かに言う?
いや、むやみやたらに言えば悪いやつの耳に入って、泥棒に入られたり、場合によっては命を狙われたりするかもしれない。
――じゃあ、誰にも言わない?
いや、急に金回りがよくなったら「犯罪に手を染めているの?」なんて友達に怪しまれそう。
――じゃあ、お金を使わない?
それじゃあ、3億円当てた意味がない。
――じゃあ、仲のいい友達だけに言う?
それでも噂が広まって、たかられそうだ。親友の中で口が堅そうな数人だけを選んで、個室付きの居酒屋に呼び出してひっそり伝える。それなら、大丈夫だろう。
――その時の会計は誰が払う?
さすがに「3億円当たったよ」と報告をして奢らないわけにはいかないでしょ。そりゃ。
――じゃあ、次に一緒に居酒屋に行ったときはどうする?
その時は友達同士なんだから、割り勘でいいじゃん。
――でも、「こいつ3億も持っているのに、月給18万で家族がいる俺から金出させるのかよ」とか思われないかな?
じゃあ、次回も僕が払うよ。
――その次は?その次の次は、どうする?
じゃあ、もういっそ今後の飲み代は全て僕が出すことにしよう。お金を持っているやつが出せばいい。
――もし、「ちょっと子供が産まれて金の入用だから、100万円くれない?」と、親友に言われた時は、どうする?
さすがにそれは断るよ。100万円は高すぎる。
――でも、たった300分の1の金額じゃない?友達が困っている時に貯金額の300分1もあげられないって、友達としてどうなの?
確かに。もし貯金が30万円なら、1000円くらいはあげるよな。よし、じゃあ100万円あげよう。
――でも、100万円あげちゃうと対等な友達って言えなくなるんじゃない?
いや、対等だよ。たまたま僕が宝くじを当てただけで、逆の立場ならコイツも同じことをしたはずだ。
――でも、もしかしたら僕に対して気に入らないことがあるけど100万円ももらっている手前、言えずにいるかもよ?
もし、そうなら対等とは言えないか。
――他の親友たちだって僕が言う冗談で笑ってくれているけど、それは奢ってもらっているからなんじゃない?
そういえば、無理に笑っているような気もする。
――最近付き合い始めた彼女だってお金目当てかもしれないよ?
いや、そんなことないよ。だって、そんなまさか・・・。
なんだか、想像しただけで疑心暗鬼になってきた。
結局、面倒くさそうなので宝くじを買ったことは、まだ一度もない。
ヤリョによる解説
「お金が増えたら嬉しい」。
単純にそんな風に思ってしまいがちだけど、宝くじの高額当選者で幸せになれた人は実は少ないらしい。
お金を持つと、その分トラブルも増える。
遺産の相続問題とか。
だから滅多に当たらない宝くじに期待するよりも、今あるお金の中でどう楽しめるか考える方が幸せへの近道になると思う。
そんな想いから、この話を書いた。
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